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1984年度八代高専(現 熊本高専八代)_小路永 守さん
旧八代高専OBの小路永さんは、熊本県庁土木部に勤務されており、熊本地震や令和2年7月豪雨からの災害復興にご尽力された方です。そこで取り組まれた創造的復興の基点は、東日本大震災の支援として仙台市に建設された「みんなの家」にあるそうです。
この「みんなの家」は、被災者住民と一緒に設計され、居住者同士の会話を増やし、笑顔を取り戻せた小さなコミュニティ施設とのことです。また、熊本で採用された中長期に使用できるRC基礎の木造仮設住宅の仕様は、令和6年1月の能登半島地震でも「くまもとタイプ」として被災地で活かされたそうです。
このような災害対応にあたり、「高専生には、被災者に寄り添って地域で活躍できる素地が十分にあり、その先に地域の方々の笑顔があることを忘れずにいて欲しい」との今後の教訓ともなる力強いメッセージをいただきました。また、令和6年秋に4年に一度の「くまもとアートポリス建築展」が開催されるので、復興した熊本の姿をご覧いただきたいとのお話をいただきました。(文責:連合会事務局)
阪神淡路大震災以降、数年おきに震度7クラスの地震が発生する一方、台風や大雨災害は毎年のように発生している。本県では、東日本大震災の翌年に熊本広域大水害が発生し、その後、熊本地震、令和2年7月豪雨災害と4年毎に大きな災害を経験した。従来の枠組みを超える私たちの創造的復興の基点は、東日本大震災の支援として仙台市に建設した「みんなの家」にある。
この最初の「みんなの家」は、「くまもとアートポリス事業」の代表である建築家伊東豊雄氏の提案により、住民の方々と一緒に設計が進められ、小さなコミュニティ施設が完成した。このプロジェクトによって、被災者の方々の会話が増え、笑顔を取り戻されるなど、私たちは災害時のコミュニティ対策の重要性を学んでいた。熊本広域大水害では、被災者の方に安心感を与える木造仮設住宅と「みんなの家」を建設し、供与終了後は基礎を木杭からRC基礎に改修することで一部を利活用した。
4年後の熊本地震では、コミュニティを重視した仮設住宅の配置基準を作成し、プレハブ仮設住宅のほかにRC基礎の木造仮設住宅や複数タイプの「みんなの家」を建設した。仮設住宅の建設は4月に始まり、11月まで続いたが、8月には、自宅再建支援としての「くまもと型復興住宅」、セーフティネットとしての災害公営住宅の建設準備に入った。「くまもと型復興住宅」は、被災者に多くの高齢単身・夫婦世帯がいらっしゃること、住宅ニーズが多様化していることなどを考慮し、標準の間取りを提案することはやめ、県産材を使用し、耐震等級3でコスト低減に配慮した住宅の提案を地域工務店に求めた。
プラン集作成のほか、県内最大の仮設団地にモデル住宅を建設するとともに、住宅金融支援機構の融資制度を組み入れ、経済的余力が決して高くない世帯の住まいの再建を後押しした。災害公営住宅は、入札の不調不落など様々な課題に見舞われたが、普段は公共事業を行わない戸建て専門の地域工務店等にも協力を求め、買取り型の導入によって、発災から4年で建設を終えた。ただ、その年の夏に豪雨災害が発生し、再び仮設住宅の建設に取組むこととなった。
新たな仮設住宅は、間取りや仕様を改良し、前例のない瓦屋根も採用した。RC基礎の木造仮設住宅は、中長期に使用することができ、住まいの再建先としても活用できるため、この豪雨災害での新たな対応と並行して、熊本地震の仮設住宅の利活用に取り組んだ。この住宅仕様は、令和6年能登半島地震でも「くまもとタイプ」として被災地で活かされた。
また、「みんなの家」は、日本財団の支援を受け、公費復旧の対象とならない被災公民館の再建にも展開した。小さな施設ではあるが、建設に携わって頂いた地域の方々の喜びは一般の公共事業とは次元が異なる。地域にお一人でお住まいの高齢者の方が、「これからはみんなで食材を持ち寄り、一緒に食事がとれる」と満面の笑みで語り掛けてこられたのが印象的であった。
災害対応は、自助、共助、公助からなるが、人口減少、高齢化が進む中では、共助の環境づくりが最も重要であり、復興感を得るためにも地域コミュニティの再生が欠かせない。仮設住宅や「みんなの家」の建設に際し、九州山口の大学生と高専生には、ものづくり(緑のカーテンやベンチづくり、住民ワークショップへの協力)と、ことづくり(交流イベント等の開催)の両面から、コミュニティ再生強化に協力いただいた。高専生には、被災者に寄り添って地域で活躍できる素地が十分にあり、その先に地域の方々の笑顔があることを忘れずにいて欲しい。
アートポリス事業では、震災ミュージアムなど創造的復興の象徴となるプロジェクトにも取り組んでいる。この秋、4年に一度の「くまもとアートポリス建築展」も予定しているので、ぜひ、復興した熊本の姿をご覧いただきたい。